
はじめに
地政学的な緊張感やリスクが語られる昨今、多くの日系企業や投資家の足が、中国本土から遠のいている。しかし、マジョリティが動かない今こそ、現地に深く入り込み、エコシステムの深層に触れることには計り知れない価値がある。
今回、某大手日系企業CVCチームと共に実施した香港・深圳視察。そこで目撃したのは、机上での情報収集では決して到達できない「社会実装の極致」と、産官学が一体となった強固なDeep Techをはじめとする新興経済のエコシステムであった。
本稿では、クロスボーダーの意思決定を加速させるための、現地のリアルを共有する。
1. 意思決定の質を高める「現場の一次情報」
現在、心理的・地政学的なハードルによって、多くのプレイヤーがこのエリアへの直接的なアプローチを躊躇している。だが、ビジネスの勝機は常に「情報の非対称性」の中に存在する。
誰もが行かない時にこそ、現地のエコシステムと直接つながり、リスクを正しく評価した上で「空白の機会」を拾い上げる。今回の視察は、クロスボーダーにおける意思決定の質を左右するのは、他ならぬ「現場の一次情報」であることを再認識する機会となった。
2. 香港:産官学が一体となった「Deep Tech」の強固な基盤
香港において特筆すべきは、スタートアップエコシステムの圧倒的な成熟度だ。
香港大学をはじめとする著名大学が政府と密に連携し、次世代産業を組織的に育成する体制が確立されている。特に、AI、ロボティクス、新素材(宇宙関連、半導体、ARグラス等)を中心とした「Deep Tech」領域のスタートアップが主軸となっており、大学発の技術をグローバル市場へ送り出すための強固な支援基盤が存在する。
起業家を大学と政府が強力に下支えするこの仕組みは、今後の日本のスタートアップエコシステムのあり方を考える上でも、極めて重要な示唆を含んでいる。

香港大学にて
3. 深圳:社会実装の極致が生み出す「クリーンなメガシティ」の完成度
香港から一歩足を進めた深圳では、テクノロジーが完全に都市のOSとして機能していた。
モビリティの完全なEV化: 街を走る車両の多くがEV・電動バイクへ移行しており、クアラルンプール(KL)等の都市部で見られる排気ガスの汚れが皆無である。
洗練された都市インフラ: 片側3車線の幹線道路が整然と確保され、渋滞を最小限に抑える都市設計。清掃の行き届いた公共施設や、整備された歩道。そこには、従来のイメージを覆すほど洗練された現代都市の姿がある。
アプリ完結型経済と人の温度感: WeChat等のアプリですべてが完結する利便性に加え、現地の人々の対応は非常にフラットで温かい。日本人に対する差別的な空気は皆無であり、グローバルビジネスを展開する上での心理的ハードルは、想像以上に低い。



4. Gobi Partnersが繋ぐ、ラボから市場への架け橋
今回の視察では、Gobi Partnersとしてアテンドを行い、産学連携の具体的なスキームやDeep Techの商業化、最先端技術への投資戦略について多角的なディスカッションを展開した。
Gobiが投資するポートフォリオ企業のファウンダーらとの生きたナレッジシェアを通じて、日本企業と現地の先端技術をどう事業へ昇華させていくか、その解像度が飛躍的に高まり、単なる「点」の視察ではなく、実戦的な「線」としての事業開発の道筋が見えたことは、今回の大きな収穫である。
5. 結びに:求められるのは「グリット」とスピード感
「リスクがあるから見ない」のではなく、「リスクがある中でいかに動くか」。現地で直接触れたクロスボーダーの熱量は、我々が次に打つべき手を示している。
テクノロジーの進化を肌で感じ、それを事業へと昇華させるスピード感。そして、変化を恐れずやり抜く「グリット」。
こうした現場のリアリティを今後も継続してお届けします。